つながるコラム「絆」 vol.66 隠岐の島町 ・ 村上 朋恵さん

隠岐地区本部

若い担い手を育むオープンな農業

村上 朋恵さん(41歳)

隠岐地区本部

伝統の「牛突き」に携わってきた経験をもとに参入

自然の恵みと地形を活かし、和牛の飼育が行われている隠岐地域。村上建設の農場は、隠岐諸島最大の島である島後の山あいにあります。長年建設を生業としている同社ですが、公共事業が減少する中で新しい事業を模索。2006年、社長(夫の太一さんの父である芳雄さん)が「牛突き」の闘牛を育ててきた経験をもとに和牛の繁殖経営に新規参入しました。
村上家に嫁いできた朋恵さんは、子育てや家事に勤しみながら家業を事務作業などでサポート。太一さんも牛の人工授精士の資格を取っていましたが、主な担当は建設業。社長が中心となり、徐々に頭数を増やしていく中で、世代交代を見据え、朋恵さんご夫婦も本格的に飼育・繁殖に携わるようになりました。

地域で得た餌を与え、自然の中でのびのびと育てる

餌は放牧地の草、近隣の農家の稲藁、遊休農地で作った牧草、 JAが販売する米を発酵させた飼料など。繁殖牛については、輸入粗飼料に頼らずほぼ100%島内でまかなっています。牛糞で堆肥を作って畑に還すため、地域内で循環型農業が完結。敷料も地域の木材業者などから買い取ったおがくずやカンナくずを使っています。  
牛が牛舎で過ごすのは基本的に冬の間と出産前後で、4月から11月ごろまでは放牧されます。牧場は山の中。斜面の多い地形を日常的に歩くからか、肉付きがよくどっしりとした体型に育ち、足腰も頑健です。「体のフレームが大きく丈夫なためか、早産や難産が少ないんです。自由にのびのび暮らしてストレスフリーだからというのもあるかもしれません」と朋恵さんは話します。

受け継いだ飼育技術にICTを加え、新しいスタイルへ

朋恵さんご夫婦が飼育に関わってからは、ICTの活用を進めています。発情や体調の変化をはかるセンサー付きのベルトを一頭ずつ装着。データはクラウドに転送され、スマホのアプリで管理します。出産の履歴や血液検査の結果なども集積でき、必要な情報をすぐに見ることができるのだとか。「アナログな帳面より簡単で効率的。体温のデータを取ってグラフでチェックすることによって、分娩のタイミングも予測できます」と朋恵さん。システムの導入後、目を離した隙に産み落とされて子牛が命を落とす事故が減ったそうです。「便利になったとはいえ、体調の確認やケア、出産のサポートなどは従来通り。昔ながらの方法にICTをプラスして、私たちのやり方を模索しています」と話します。

若い担い手を育むオープンな農業

農場では、正規雇用のスタッフ、飼育を学びにきた地元の青年、新規就農を目指すIターン者など様々な人が働いています。中には、隠岐にゲストハウスを作るので、それまでの間働いている人も。朋恵さんは「みんながつながってコミュニケーションできる場でありたい。オープンな農業をする中で、若い担い手が育ってくれるのが理想です」と話します。
休憩中はコーヒーを片手に会話が弾みます。「この時間のために仕事しているようなもの」と朋恵さんも笑顔に。生命への細やかな気配りが必要な仕事の中で、コミュニケーションがリフレッシュの時間になっているようです。

目指すは「地産地消」

隠岐の畜産業は繁殖牛が中心で、子牛のほとんどが島外に出荷されるため、島民の口に入る肉はほんのわずか。そんな中、朋恵さんは牛肉の島内自給を目指しています。「ここで生まれた命を自然の中で幸せに育て、ここに住む人が安心していただけるようにする。そんな仕組みを作るのが目標」と話す朋恵さんは現在、引退した繁殖牛を実験的に肥育し始めているのだとか。「走り出したばかりですが...。牛を幸せに、そして人も幸せになるよう、農業によって地域づくりに貢献できればと思います」と、夢を語る表情はイキイキと輝いていました。



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