つながるコラム「絆」 vol.97 大田市 ・ 寺本辰男さん

石見銀山地区本部

一年をかけて育てる、白ねぎ
機械化は「続けるため」の工夫

農事組合法人志学みなみ 代表 寺本辰男さん

石見銀山地区本部

地域の農地を守るために

 三瓶山のふもと、山あいに広がる三瓶町志学地区。昔から農業が営まれてきたこの地区では、少子高齢化が進むにつれ、「この先、農地をどう守っていくか」という課題が意識されるようになってきました。10年以上前から、地域で助け合いながら農地を維持してきましたが、2019年に任意の営農組合を設立。国の制度を活用しながら圃場整備を進め、環境を少しずつ整えてきました。そうした歩みを土台に、2025年に「農事組合法人志学みなみ」として新たな一歩を踏み出しました。 組合員は土地所有者も含め20人以上いますが、実際に活動できるのは10人ほど。ほとんどの人が仕事をしながら法人の活動に参加しています。同法人の代表を務める寺本辰男さんもその一人。これまで地元の職場で働いてきましたが、現在は引き継ぎの時期を迎え、少しずつ農業の時間を増やしています。

一年をかけて育てる、白ねぎ

栽培の中心は水稲で、白ねぎは全体の1割ほど。それでも白ねぎは、秋から冬にかけて同法人を支える欠かせない作物です。 収穫は11月上旬から1月中旬と限られた期間ですが、3月から定植が始まり、夏は病害虫防除を重ね、秋には土寄せを行うなど、ほぼ一年を通して畑と向き合っています。

機械化は「続けるため」の工夫

 同法人の営農を支えているのが、積極的に取り入れてきた機械化です。定植には、チェーンポットの苗を引っ張って植え付ける道具を使用。収穫時には、機械で横を掘って抜きやすくしてから、手作業で抜いていきます。かつては鍬で一本ずつ掘り起こしていたことを思うと、体への負担は大きく軽減されました。
一方で、トラクターを動かせるように畝間を広く取る必要があり、植え付け本数が少なくなるという課題も。それでも、「体が楽でないと続かない」と寺本さんは話します。年齢を重ねる中で、農業を続けていくための選択です。

野菜づくりは、毎日向き合う仕事

栽農業は、天候に大きく左右されます。特に露地野菜である白ねぎは、山に囲まれた立地による日当たりの制限に加え、気温や雨の影響も受けやすく、育てるのが難しい作物です。
防除は、適切な時期を逃せば、その後の生育に大きく影響します。収穫のタイミングについても同様。「今日は仕事だから」と対応を後回しにすると、後々まで響き、出荷できなくなることもあります。毎日の変化を見ながら手を入れていかないと、良いものは作れないため、寺本さんは「野菜作りは、兼業ではなかなか難しい」と語ります。
さらに悩まされているのが、鳥獣害です。イノシシは柵である程度防げるものの、厄介なのは猿。群れで現れ、白ねぎの白い部分だけを狙って食べてしまいます。「甘いところしか食べないんだよね」と苦笑いの寺本さん。自然と向き合いながら、その都度対策を重ねています。

生産性を高め、次へつなぐ

法人化を経て、寺本さんが意識しているのが「生産性を上げること」です。新しいメンバーを迎えたい気持ちはあるものの、まずは安定して良いものを作り、出荷できる体制を整えることが先決だといいます。当初は、定年を迎えたら手が空くメンバーが増える想定でしたが、働き方の変化でそうもいかず。それでも「ここから数年で、毎日畑に関われる人は増えていくと思う」と期待を込める寺本さん。毎日作業ができる体制が整えば、作物の状態を見極めやすくなり、結果として生産性の向上につながっていく可能性が大きくなります。そうした展望を視野に入れながら、同法人の営農は続いています。
寒さが増すほど甘みを蓄える冬の白ねぎ。地域の人の手と努力が重なり、この冬の食卓へと届けられています。



バックナンバーへ >>